パチンと指を鳴らしたのはアレイスターだった。 「元々何の根拠もなく自分はハイランダーの 末 ! (まつ) 裔 ! (えい) グランストラエ伯爵だ 輩 ! (やから) た。いちいち舞台俳優じみた大仰で無意味な振る舞いに付き合う必要はない。……それに私はこう言ったはずだぞ、メイザース。一つ一つの成功失敗は重要ではない。その積み重ねでビッグデータの 如 ! (ごと) く 雁 ! (がん) 字 ! (じ) 搦 ! (がら) 丸裸にするとな」 その小さな音に呼応するようだった。 ドッ !! と粘ついた音が夜空を覆い尽くした。いいや違う、肥大しきった肉の塊、手足の数がおかしいモノ、金属で作った巨大な昆虫、精 味な人形などの群れを総称して、 「クロウリーズ・ハザード !? 」 「誘導しておいて悪いがこちらも制御不能だ。せいぜい 足 ! (あ) 搔 ! (が) けよメイザース」 上 ! (かみ) 条 ! (じよう) が叫ぶが、メイザースもメイザースでいちいち視線など外 呆 ! (あき) に息を吐いて、火の 杖 ! (つえ) の底で軽く地面を 叩 ! (たた) く。 屋根や 尖 ! (せん) 塔 ! (とう) の先に控えていた魔術師達が、迅速に動いた。 これが。 これが本当に、魔術大国イギリスをギリギリまで追い詰めた『群れ』なのか。 クロウリ の名前それ自体が宙に浮かんでしまうようであった。 見る影もなかった。 戦いの形になっていない。あたかも雑草を刈り取っていくかのように一方的な破壊。死神が持っているものは剣でも 槍 ! (やり) でもな 何 ! (な) 故 ! (ぜ) 抗などなく一斉に奪うためだ。そんな 益 ! (やく) 体 ! (たい) もない妄想にまで話が広がってしまいそうなくらいの、圧倒的な格差があった。 無数のタロットが宙を……、塔を……崩す稲光を誘導した。 ザザ。 ……手に 莫 ! (ばく) 大 ! (だい) な炎が……狂った。 ジジジ。 白と黒の…… 棍 ! (こん) が 唸 ! (うな) り、周囲の魔術がブースト……た。 ザザザガリガリ。 たんたたん! とタップシューズで地面を蹴……うな音と共に無数の火花が十字を形成……。 …半不死の肉体を利用……相討ち上等で拳が……だ。 ガリガリガリガリガリガリ !! ……黒い箱がパカパ……開閉し、持ち主……計算不能な魔術がランダ……飛び出……。 ざざざガガがりがりが ジジジジジジジざざざガリガリザザザザザザザザじじじじじじじじじりじりじりじりざりざりざりガリガリガリガリガリざりざりジリジリジリジリじじじじじじじじじじざざざざざざざざざざがががが っっ !! 「……、」 目で見ても、だ。 己の記憶と照らし合わせ、何度も何度も 反 ! (はん) 芻 ! (すう) しようとも。 具体的に 嚙 ! (か) み 砕 ! (くだ) こうとしても、 上 ! (かみ) 条 ! (じよう) 当 ! (とう) 麻 ! (ま) にはどうにもならない。 もはや追い切る事のできない光景が、真正面から暴力みたいに押し寄せてきた。 それでいて。 一つ一つが無秩序に突出しているのではなく、全体で奇怪な調和の取れた曲芸であるというのがかろうじて分かるくらいで……。 世界最大の魔術結社。 『黄金』。 どちらがどちらを圧倒しているかなど、わざわざ論じるまでもない。相乗効果、なんていう漠然とした言葉が脳裏に浮かぶ。ボタボタボタボタ !! と重たい雨が降るような音と共に、血と肉と 臓 ! (ぞう) と 物 ! (もつ) とその 他 ! (た) 諸 ! (もろ) 々 ! (もろ) 何の部品か想像のつかないものさえ次から次へと落ちてくる。見ているだけで呼吸が止まりそうな 上 ! (かみ) 条 ! (じよう) のパーカーを、しかし一番に狙われているはずのアレイスターはちょこんと 摘 ! (つま) んでくいくい引っ張っていた。こんな時まで日本で生まれた 萌 ! (も) えの心を手放さないとは、何だかすげえー余裕がおありのようだった。 ゴガッ !! と。 閃 ! (せん) 光 ! (こう) が 掠 ! (かす) めたと思ったら、ウェストミンスター寺院の 尖 ! (せん) 塔 ! (とう) の先が削り取られて蒸発した。クロウリーズ・ハザードの肉だか臓物だかが降り注ぎ、屋根の一部も陥没を始めている。 『黄金』はイギリスを守るために配備されている、のではないのか? 解き放った側にも制御不能なのか。 あるいは、裏の裏から本当にこの国の暗闇に君臨していたのは、彼ら『黄金』だったのか。 「(……ただの 目 ! (め) 眩 ! (くら) ましだ。今の内にとっとと行方を 晦 ! (くら) ますぞ)」 「えっ、あ?」 「(ハナからあんなもんで勝利できるなどとは期待していない。今はデータを集める段階だと散々説明しているだろう? スマホとは偉大な発明だな、馬鹿がはしゃいでくれたおかげで『黄金』側の魔術師の得意とする術式は録画できた。安全にメイザースの遺体を確保する線は空振りだったし、正直言ってこんな辛気臭い墓地に 留 ! (とど) まり 続 ! (つづ) ける理由は何もない)」 「逃がすと思うか?」 これだけの騒ぎの中、的確に突き刺すような低い声があった。 少し離れた場所から、メイザースがもう一度、確認を取るように言い放った。 「逃がすと思うか?」 対して、アレイスターは指を鳴らしてある方向を指差した。 首を振った先にいた誰かに向け 上 ! (かみ) 条 ! (じよう) はとっさに叫んでいた。 「 一方通行 、 頼む !! 」 「 チッ 」 舌打ちが一つ。 ッッッドン !! !! !! という爆音が 炸 ! (さく) 裂 ! (れつ) する。ベクトル操作をも利用して墓地の地面を蹴った学園都市第一位の白い影が右腕で 上 ! (かみ) 条 ! (じよう) 、左腕でアレイスターの体をさらった。 「温にして乾」 直後にメイザースからの一撃。 火の 杖 ! (つえ) がくるりと回ったかと思ったら、周囲のクロウリーズ・ハザードをまとめて焼き切って、一瞬前まで 上 ! (かみ) 条 ! (じよう) 達 ! (たち) が立っていた場所を大蛇のような炎が吹き荒れた。石の塀に、鉄の柵。間にあった全てがねじくれて吹き飛ばされる。やはりメイザースもまた、イギリスの設備や施設に対する配慮は全く見られない。『黄金』の長の 外 ! (がい) 套 ! (とう) が爆風に大きく 翻 ! (ひるがえ) る。それでも向こうにとってはどこまで本気だったのか。ギリギリの所で食いそびれ、その隙をついて第一位に腕一本で抱えられたままアレイスターが指を鳴らす。追加のクロウリーズ・ハザードの群れが彼我の間を分厚い壁のように埋めていく。 ウェストミンスター寺院の 敷 ! (しき) 地 ! (ち) から飛び出すだけでも命懸けだ。 「この辺りで 良 ! (い) いだろう、バッテリーは可能な限り温存しておけ」 「がっつり助けられておいてその言い草かキサマ」 一方通行 ! (アクセラレータ) よりも 上 ! (かみ) 条 ! (じよう) の方が 呆 ! (あき) れて 呟 ! (つぶや) いてしまったが、白い怪物はいちいち 拘 ! (こう) 泥 ! (でい) などしない。ただ必要な事を並べていく。 「アレで全部か?」 二人を銀の砂にまみれたロンドンの道路へ放り捨てると、当の 一方通行 ! (アクセラレータ) は現代的なデザインの 杖 ! (つえ) を突いて、鬱陶しそうに細い顎でウェストミンスター寺院の方を示していた。 「だとすりゃ一五分も 保 ! (も) たねえぞ」 「だろうな。まあどれだけ気張ったところで魔術を使って『黄金』最全盛の傑物どもを殺そうなどと考えるのは間違いだ。クロウリーズ・ハザードが殺されるたびに今いる私はデフラグが進んで表面上の実力も増していくはずなのだが……まあ、その程度で何とかなるメイザースでもあるまい。ヤツはただ四つの元素、基本の中の基本を完全に御する事で世界の全てを表現する。あれに超常で挑むのは、太陽に向けて懐中電灯を向けるくらいの空回りだな」 「……マジかそんなレベルで開いちゃってます?」 「だからと言って 焦 ! (あせ) る必要はない」 世界最大の魔術結社『黄金』から総出で追われているという、窮地。言いだしっぺの銀の少女自身が一番その脅威を理解しているだろうに、どこか肩の力を抜いて 呆 ! (あき) れたような目を向けていた。 失敗に慣れている者は立ち直るのも早い。 先ほどまでウェストミンスター寺院の墓地で眼球まで震わせていた魔術師とは思えない。この辺りの自己制御は、 上 ! (かみ) 条 ! (じよう) 当 ! (とう) 麻 ! (ま) とはまた 似て非なる 強さと言えるか。 「魔術に対し科学で抗せよと論じたのは君達だぞ。背中を押して奮い立たせた以上は付き合いたまえよ。……ああ、そうだとも。こちらも科学と魔術を切り離し、一〇〇年越しで世界を温めてきた。統括理事長アレイスターの独自技術体系でもって『黄金』を 叩 ! (たた) き 潰 ! (つぶ) してくれる」 げしっ、と 上 ! (かみ) 条 ! (じよう) の肩に乗っている小さなオティヌスが少年の頰を軽く蹴っていた。ほだされるなと警告している。 「(……最後まで付き合う必要はない、ここだと思った所で勝手に飛び降りろ、じゃなかったのか。まったく、早くも言っている事が変わっているぞアレイスター)」 予定は未定。特に、相手が『あの』悪名高いクロウリーの場合は十分に石橋を 叩 !